沖縄の人々
琉球人が信じること、重んじること
今現在「沖縄県」と呼ばれているおよそ350の島からなる諸島のほとんどは、かつて「琉球(りゅうきゅう)」という名の王国でした。琉球王国は1429年から1879年にかけて栄えた国家であり、すなわち、沖縄の地は近代史で見ればごく最近まで、日本とは別個の独立した国家であったということです。琉球――正式には「琉球国」ですが、かつてその地に住む人々を「琉球人」と呼びました。今でも沖縄県民のことをそう呼ぶきらいがありますが、琉球人と呼ばれて眉をひそめる沖縄県民はそういないでしょう。むしろ機嫌を良くする場合がほとんどで、お酒の席ともなれば、たちまち沖縄の歴史について饒舌に語り始めるかもしれません。
彼ら沖縄県民は誰に言われずとも、誰よりも彼ら自身が自分たちのことを「琉球人」と自称してはばかりません。沖縄県民は自分たちが琉球人であることに、あるいは琉球人を先祖に持つことに強い誇りを感じているのです。祖先を非常に重んじるというのも、この地に古くから根づいている沖縄県民の特徴といえるでしょう。こんにちの日本には仏教が広く浸透していますが、沖縄県では仏教の存在感はやや薄いものとなります。かつて日本に仏教が大流行し、国教にも採用された時代、沖縄は日本に属していませんでした。それゆえ土着の、非常に古い、それこそ国ができる以前から人々のあいだで信じられてきた自然信仰、祖先崇拝の原型が長らく保たれています。その信仰によれば、神とはすなわち祖先のことです。祖先が死ぬとその霊は山や海に旅立ち、やがては子孫を見守る守り神となるのです。私たちのあいだで用いられる神という言葉の意味とは、根本的に異なるもの違いありません。
今の沖縄県に生きる人々、若者は琉球人的か
沖縄県の人々はかつて栄えた琉球国に、そしてその地に生きた誇り高い人々に畏敬を表します。そしてかつての王国に棲んだ人々の子孫である自分たちのことを琉球人であると強く自負しています。その傾向は年長者ほど傾向です。彼らと付き合う際には沖縄の歴史を軽んじない言動を心がけることが大切であると言えます。しかし若者はどうでしょう。世代は刻一刻と移ろうもので、1879年についえた琉球の文化も、今もって根強いとはいえ未来永劫不滅というわけにはいきません。経年劣化の定めを免れないのは伝統文化の常でしょう。
沖縄の人々が自らを「琉球人」と誇るとき、彼らは琉球人のどんな側面を称えているのでしょうか。琉球人はその海上交通に恵まれた立地から古くより多くの外国文化を取り入れており、当時としては非常に先進的で、洗練された民族でした。芸術性に富み、琉球漆器に代表される様々な工芸品、独自の製造技術を持っていました。今に残る琉球国の建造物はそのことを証明するかのように見事な美観であり、多くの観光客に愛される観光スポットと化しています。また気質的な傾向で言えば、琉球人は非常に郷土意識の高い生活を送っていたことがわかっています。家族や先祖を、特に先祖のことは神のごとく尊敬しています。この彼らの性質は、その生活や仕事を貫く社会秩序の安定に強く貢献していました。赤の他人であっても同じ地域に住んでいる、あるいは家族が何らかの恩を受けたなどでかすかでもつながりがある場合、困っている時には助け合うことに全力を傾けます。
意識調査によれば、沖縄県の今に生きる若者たちにもまだまだ琉球人的な性質は十分に受け継がれていることがわかっています。沖縄県では「一生今の土地に住み続けたい」と答えた人が全体の50%を上回っており、これは全国的に見て非常な高水準です。沖縄県の出生率がダントツの全国一位であることは有名ですが、この事実を少し別角度から見ると、家族の大切さ、居心地の良さを強く自覚している県民であるとも捉えられます。
慣れればこの上ない居心地、「ウチナータイム」生活
観光で一時的に沖縄を訪れた人にとってはあまり気に留めることのない部分ではありますが、いざ沖縄にある程度の期間住もうとなると、慣れるまでは他県民にとってギャップとなる問題が、この沖縄県民独特の時間感覚、「ウチナータイム」です。ウチナータイムの「ウチナー」とは現地の言葉で地元――すなわち沖縄のことを指しています。ウチナータイムとはつまり「沖縄時間」と訳せますが、どういった意味なのでしょうか。
沖縄の人々はとてもおおらかで、細かいことを気にしない人が多いと言われます。これは他県民にとっては広く知られた認識ですが、沖縄県民にこれを言っても気を悪くする人が大半ではないでしょうか。自覚している人は少ないでしょう。人間の生まれつきの気質というよりは土地に根づく風土――環境の違いからくる認識の違いであることに留意しなければなりません。ウチナータイムとは、おおざっぱに言えば、彼らの時間の正確さにこだわらない感覚のことを言います。幼いころから「10分前行動が基本」と教えられる他県民の人にとっては、約束の時間に1分でも遅れることは礼儀を欠く行動であり、他人から「ちゃんとしてない人」と思われても仕方がない、という認識があります。しかし沖縄では30分程度の遅刻は日常茶飯事とは言わないまでも、まったく大きな問題にはなりません。相手が多少遅刻したからといって、怒る人はほとんどいないと言われます。図らずも度量の大きな、胆の据わった琉球人の特徴を良く言い表している言葉といえます。
出稼ぎとなると実際に沖縄の地に住まうことになるわけですから、最初はこの時間間隔のずれに疑問を覚えることもあるでしょう。しかし一度受け入れてしまえば、彼らのおおらかさはとても居心地がいいはずです。ウチナータイムを身に着けて、細かいことを気にしない平和な心を手に入れてみませんか?
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