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『越前』を名に冠する伝統工芸の里、福井県
古来の職人芸で現代に挑む福井の魅力とは
福井県といえば「越前打刃物(えちぜんうちはもの)」や「越前漆器(えちぜんしっき)」、「越前焼(えちぜんやき)」といった頭に「越前」を冠する伝統工芸品で有名な県です。越前焼の歴史はおよそ800年前にさかのぼり、平安時代の終わりごろから長い年月人々に親しまれてきました。現在でもその人気は陶器愛好家たちに根強く、全国から注文の依頼が絶えません。しかしこの「越前焼」は数百年に及ぶ蓄積された奥義の結晶であり、大量生産することのできない製品です。そのため名のある職人への制作依頼は数年単位の順番待ちとなることも珍しくありません。いかに工業技術が発達した昨今といえど真似することのできない陶器職人の技とは、どのようなものなのでしょうか。
陶器製作を機械が真似できない理由は、それが人の感性に語りかける美術作品であるからだと思います。中でも「越前焼」は非常に微妙な美術的側面の強い陶器だと称えられるゆえんが、その形と色合いのいびつさにあるといわれます。越前焼は一般的な陶器に用いられる「釉薬(ゆうやく)」を使用せずに裸の状態で高温の窯に入れられます。釉薬とは陶器の表面を滑らかにコーティングするガラス質の部分で、思い返せば我々が日頃触れている陶器のほとんどにそれが使用されていることがわかります。釉薬を用いることなく焼き上げられた陶器は一見すると失敗作ではと思えるほど地味で、焦げつき、不規則で不格好な焼跡が刻まれています。「しかしそこがいいのだ」、と感じる人の感性に、どうして機械で作られる製品が追いつけるでしょうか。
福井の工芸品、それぞれの背景に迫る
今となっては福井の代表的工芸品の地位を獲得した「越前焼」も、ある時期には絶滅の危機に追いやられるほどに衰退しました。それというのも、越前焼はとにかく無骨で飾り気のない実直な仕上がりが特徴ですが、時代の流行に沿って様々な茶器が作られた江戸時代、人々は色鮮やかに塗られた器を好む一方、一切の彩色を行わずあくまで窯の火と灰の焦げ付きが形成する文様のみで勝負し続ける越前焼には見向きもしませんでした。それでも構うことなく同じものを作り続けた当時の越前焼職人たちが今現代でこれほどに越前焼が人気を博していることを知ったら、どう思うことでしょうか。
「越前打刃物」とは、福井が数百年誇ってきた刀剣製造技術をそのまま活かしたやり方で製造される刃物の呼称で、全国で愛用される包丁などのブランドとなっています。
「越前漆器」も忘れてはならない福井県産の逸品です。その起こりは1500年前、時の天皇が冠の修理を町の塗師に依頼したことに端を発するといいます。塗師は修繕した冠に黒塗りの椀を添えて献上し、天皇はその出来栄えに感動しました。そして街一体で漆器づくりに取り組むよう命じたというのです。
では、「越前和紙」という名は聞いたことがあるでしょうか。奈良時代にはすでに地元に根付いていた高い製紙技術は、仏教の経典を書き写すために非常に重宝され、一気に全国的な知名度を獲得します。さらに時代を重ね、「越前奉書(えちぜんほうしょ)」に代表されるようなより質の高い和紙が製作されるようになりました。近代では多くの芸術家に支持される高級和紙ブランドとなっています。
耽美!めのう細工の圧倒的気品
めのう、という宝石をご存知でしょうか。ダイヤモンドやルビー、サファイアを宝石として思い浮かべるのは誰にでもできると思いますが、「めのう」となるとやや知名度に劣るようです。その正体はコーヒーに細くたらしたミルクのような模様を持つ半透明の石英で、多くは乳白色、あるいは深い朱色をしています。透き通ってもいなければ、キラキラと輝く石でもありません。しかし実物を見ればこの石の魅力は一目でわかるでしょう。めのうの加工は宝石の中でもひときわ難しく、高い技術を持った職人の双肩にその出来栄えのすべてがかかっています。そしてめのうの加工に長けた腕利きの職人たちが、福井の地には古くから息づいています。
福井の誇るめのう細工は「若狭めのう細工」と呼ばれ、貴石細工の最高傑作として世界中の人々から関心を集めています。めのうはダイヤモンドなどのように多角体にカットされて完成することはありません。めのう細工は人の手によって丹念に彫り上げられる、曲面で形成された彫刻作品なのです。非常な手間と技術を必要とする細工で、完成した製品は大きなものになると簡単に数百万円の値打ちがつきます。多くアクセサリーや置物、器となり、福井から全国へ向けて出荷されます。
福井県でめのう細工が盛んになったゆえんは、およそ二百年ほど前に他所から学んできた玉づくりの技術を用いて事業を始めた人物がいたことによるといいます。かつてめのうは北海道で多く産出されましたが、福井では一切採れません。福井の「若狭めのう細工」の正体は、たった一人の実業家に緒を結ぶ、連綿と受け継がれてきた技術そのものと言えるでしょう。たとえばある瞬間めのう細工の技術を有する職人たちが一斉に消えてしまうと、そのとき「若狭めのう細工」は滅んでしまいます。技術こそ、極めて貴重な無形の財産であると理解できます。
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